研究概要

目的

現在では心臓病の90%以上は動脈硬化関連であると言われている。食生活の劇的な変化が起こった戦後、平均肥満度(BMI)が上昇するとともに、多くの病態が露呈してきた(図1)。
特に脂質に関しては、特定脂質の欠乏は統合失調症や自閉症を発症するリスクとなり、過剰な状態では心臓病や糖尿病、アルツハイマーなどのリスクに繋がると言われている。その一方で脂質は外界と細胞を分けることで生命を保障している細胞膜の構造と機能に必須の物質でもある(図2)。

図1 日本の食生活と変遷と平均肥満度 図1 日本の食生活と変遷と平均肥満度
図2 細胞膜と脂質 図2 細胞膜と脂質

本研究プロジェクトは、生体に必須な物質でありながら様々な病態の因子ともなりうる脂質に関する研究に、生化学、生物物理学、有機合成化学、界面化学、分子科学といった分野を超えた共同研究で取り組み、はじめて統合的な理解を実現するものである。脂質の統合的理解が得られる事で、脂質に起因する病態(メタボリックシンドローム、神経疾患等)の予防、治療への道に繋がると考えられる。

脂質研究の特徴

脂質研究の特殊性

脂質は非水溶性であり、構造多様性に富み、集合体として一分子からは予想できない性質を示すなど、研究対象として扱いにくい物質とされているが、これまで以下の2つの研究の様な多角的なアプローチにより、一定の成果も上げられている。生化学、生物物理学、有機合成化学、界面化学、分子科学といった分野を超えた共同研究により初めて脂質の統合的理解が可能になる。

図3 リピドダイナミクス 図3 リピドダイナミクス
図4 エンドゾーム形成物質 BMP 図4 エンドゾーム形成物質 BMP
アプローチ

本研究では、①脂質-タンパク質相互作用(1分子解析、イメージ相関解析)、②リピドダイナミクスプロジェクト(脂質の可視化技術、脂質-水界面の物理、局所顕微鏡技術)、③質量分析顕微鏡システム(脂質の網羅的解析、1細胞質量分析)など様々なアプローチから解析、研究を進める。

図5 3つのアプローチ 図5 3つのアプローチ

研究体制

以下の3つのサブプロジェクトが一体となって研究を行う。

1 脂質分析の基盤技術の開発
有田  正規環境資源科学研究センター
メタボローム情報研究チーム
チームリーダー 有田 正規 (D.Sci.)
脂質の生化学解析
脂質の可視化、物理化学的解析、阻害剤のスクリーニング
2 脂質-膜タンパク質相互作用
佐甲細胞情報研究室 主任研究員 佐甲 靖志 (D.Sci.)佐甲細胞情報研究室
主任研究員 佐甲 靖志 (D.Sci.)
1分子解析、膜タンパク質の構造解析、分子動力学シミュレーション
3 脂質が関係する病態の分子解析
脳科学総合研究センター 神経膜機能研究チーム チームリーダー 平林 義雄 (Ph.D.)脳科学総合研究センター
神経膜機能研究チーム
チームリーダー 平林 義雄 (Ph.D.)
病態の責任タンパク質の同定
ノックアウトモデル動物の作製

国内外研究拠点

本プロジェクトでは、国内6拠点、海外2拠点が、先述の3つのプロジェクトに分かれて共同研究を行う。 国内外研究拠点

研究を支えるテクノロジー

  • 1細胞質量分析(升島)1細胞質量分析(升島)
  • 網羅的脂質解析(斉藤)網羅的脂質解析(斉藤)
  • 脂質の可視化(小林)脂質の可視化(小林)
  • 界面の微細構造(田原)界面の微細構造(田原)
  • 1分子解析(佐甲)1分子解析(佐甲)
  • 膜タンパク質解析(城)膜タンパク質解析(澤井)
  • シミュレーション(杉田)シミュレーション(杉田)

研究の進め方

以下に各サブプロジェクトの役割と連携方法の一例を示す。
図6の(1)では、特定の膜タンパク質変化を解析する事で、個体における脂質代謝の変化(メタボリックシドローム)に理解を得ようとするもので、サブプロジェクト1及び2において共同開発する阻害剤を用いて、サブプロジェクト3において個体検証を行う。
図7の(2)では、脂質結合タンパク質の変化から結合脂質の同定を図ることで、自閉症や統合失調症などの病態のメカニズムを明らかにすることを想定したもので、サブプロジェクト1及び2において脂質類似体を開発し、サブプロジェクト3において個体検証を行う。

図6 進め方(1) 図6 進め方(1)
図7 進め方(2) 図7 進め方(2)